「そ、これが私たちの秘密基地ネルフ本部。世界再建の要。人類の砦となる所よ」







EVANGELION NEPHILIM

EPISODE:2







「おっかしいなあ〜たしかにこの道のはずよねえ……」
車から降り、建物の中の移動廊下を進みながら呟くミサト。
シンジは先ほど渡されたファイルを読みながら後に続いている。
「しっかしリツコはどこいっちゃったのかしら…」
ミサトは振り返り
「ごめんね。まだ慣れてなくて……」
シンジに一言いれる。
「さっき通りましたよ。ここ」
シンジの冷めた言葉の一撃はミサトにダメージを与えた。
一瞬怯むもすぐに回復したミサトは内線電話を発見し
「でも大丈夫。システムは利用する為に有るものね」



「技術局一課E計画担当の赤木リツコ博士、赤木リツコ博士、至急作戦部第一課葛城ミサト一尉までご連絡下さい」
本部内に流れるアナウンスの声。
それは彼女の元にも届いていた。
何本ものパイプが並ぶ赤い水を張ったプールの様な場所。
彼女は其処から上がりウエットスーツを脱ぎながら呟いた。
「あきれた。また迷ったのね」



エレベーターの前、シンジとミサトはエレベーターの到着を待っていた。
既に目を通し終えたのか、ファイルは鞄に突っ込んである。
チー−ンという音がしてエレベーターが到着。
扉が開くとそこには水着の上に白衣を着た金髪の女性が立っていた。
「あら、リツコ」
先ほどアナウンスで呼んだ赤木リツコに声をかけ、一歩下がり場を空けるミサト。
リツコと呼ばれた女性が形の良い眉を一瞬歪めそれに答える。
「何やってたの葛城一尉。人手も無ければ時間も無いのよ」
「うぅ、ゴミン!」
ミサトが顔の前で両手を合わせ、謝る。
リツコは軽い溜め息を一つ吐き一歩を踏み出しエレベーターから出て、
「例の男の子ね」
ミサトの傍らに居るシンジを見て確認の一言。
「そう碇シンジ君」
リツコの言葉を肯定するミサト。
「私はネルフ技術一課E計画担当博士赤木リツコ。よろしくね」
「碇シンジです。初めまして、よろしくお願いします」
シンジは軽く頭を下げながらリツコに答えた。



「では冬月。後を頼む」
碇は初老の男、冬月にそう言い、エレベーターに乗り込んだ。
「久し振りの親子の対面がこれか……」
独り言の様に呟き複雑な思いを抱く冬月。
「副司令。目標が再び移動を始めました」
そこに使徒の報告が届く。
「よし。総員第一種戦闘配置」



『総員第一種戦闘配置。対地戦用意。』
非常灯が明滅し、緊迫したアナウンスが鳴り響く。
『繰り返す、総員第一種戦闘配置。対地迎撃戦用意』
それは長いエスカレーターに乗っている3人にも聞こえてきた。
「ですって。」
「これは一大事ね。」
緊張感のないミサトとリツコの会話。
「で、零号機はどうなの?」
「B型装備のまま現在冷却中」
「それ、ほんとに動くのぉ〜?まだ一度しか動いた事無いんでしょう?」
シンジは緊迫したアナウンスから、かなり差し迫った事態だな〜とは思うものの、
特に気にした素振りは見せずファイルに目を通しながら歩いている。
「起動確率は0.000000001%から未知数。O9システムとはよく言ったものだわ」
「それって動かないって事?」
「あら失礼ね。0ではなくってよ、それ以上かも以下かも解らないけど」
「数字の上ではね。ま、どのみち動きませんでした、じゃもうすまされないわ」
「試してみれば解るわ、それに……」
チラリとシンジに目をやってから心の中で呟くリツコ。
(それに…司令達は動くと確信しているわ)



そのままリツコの先導に続き、先に進むミサトとシンジ。
そして三人が扉を潜りある部屋に入ると辺りが真っ暗になった。
「真っ暗ですよ」
シンジの声にリモコンのスイッチを入れるリツコ。
照明が点き周囲に明かりが灯される
シンジの眼前に巨大な角の生えた紫の顔が飛び込んできた。
赤い水に使った巨大な物体。
地の池に使った一本角の鬼を想起させる光景。
その顔、その眼に当る部分と瞳が会った瞬間、鬼の眼にまるで命を宿したのかの様な気配を感じた。
「え?……キミは………」
眼前に飛び込んできた紫の顔に何故か懐かしさと頼もしさを感じながら呟くシンジ。
「人の作り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン。」
広大な空間に響き渡る男の声。
「コレはその零号機。建造は極秘で行われた。我々人類最後の切り札だ」
ソレはエヴァンゲリオンの頭上奥、壁に取り付けられたガラス窓の向こうのブースに存在する男より、
碇シンジの父親、碇ゲンドウより発せられたものだった。
「久しぶりだな」
独特のニヤリ笑いと共に言うゲンドウ。
シンジはエヴァンゲリオンに魅入られたまま答えない。
「……出撃」


「出撃!?初号機は凍結中でしょ!?まさか、零号機を使うつもりなの!?」
ゲンドウの呟きに納得がいかないのか、隣りのリツコに食って掛かるミサト。
「ちょっと、レイはまだ動かせないでしょ!?他の子達は起動には至って無いし、パイロットがいないわよ」
「さっき届いたわ」
「マジなの?」
リツコはミサトからシンジに視線を移し
「碇シンジ君。あなたが乗るのよ」
シンジは何も答えない。
エヴァンゲリオンに魅入られたまま何の反応も示さない。
「でも綾波レイでもエヴァとシンクロするのに7カ月かかったんでしょ。今来たばかりのこの子にはとても無理よ」
避難の意の混じった弁護の声を上げ、予想される事態からシンジを庇おうとするミサト。
「座っていればいいわ。それ以上は望みません」
「しかし」
「今は使徒撃退が最優先事項です。そのためには誰であれエヴァとわずかでもシンクロ可能と思われる人間を乗せるしか方法はないわ。
わかっているはずよ、葛城一尉」
「そうね……」
しかしリツコにあっさりと言い負かされ、苦渋に満ちた表情で歯切れ悪く納得する。


長い沈黙が周囲を支配する中、突如ネルフ全体が激しい揺れに襲われる。
「ヤツめ。ココに気付いたか」
天井を睨みながら忌々しげに呟くゲンドウ。
「シンジ君、時間が無いわ」
同じく天井に視線をやった後、シンジに視線を戻し告げるリツコ。
「………乗りなさい」
苦渋の表情のままミサトもそれに続く。
だがシンジは何も答えない、何の反応も示さない。
ただただエヴァンゲリオンに魅入られている。
「シンジ君、何の為にここへ来たの?……ダメよ、逃げちゃ……お父さんから、何よりも自分から………」
その無反応を拒否と思ったのか、シンジの顔を横から覗き込みながら、呼びかけるミサト。
しかしシンジは無反応のままだ。


「冬月……。レイを起こしてくれ」
付近のコンソールを操作して連絡を入れるゲンドウ。
『使えるかね』
「死んでいる訳ではない」
『……わかった』
シンジの無反応にゲンドウが下した決断。
それを聞き、行動を起こす冬月、リツコもそれに続く。
「零号機のシステムをレイに書き直して再起動!」
『了解。現作業を中断して再起動に入ります』
リツコの言葉に、作業を中断して成り行きを見守っていた周囲が、再び喧噪を取り戻した。


しばらくしてシンジの脇を医者と看護婦に連れられ、包帯だらけの蒼銀の髪に紅い目をした少女を乗せた移動式のベットが通った。
少女はベットの移動が止まると痛みを堪え起きあがろうとする。
「あなたが乗らなければ、傷ついたレイが乗ることになるわ」
相変わらず無反応のシンジに冷たく告げるミサト。
だが魅入られているシンジには聞こえてはいない。
「くっ!アンタねぇ!!人の話を…」
度重なる無反応に激昂してシンジに掴みかかろうとする。
その時、空間を巨大な振動が満たした。
震動は天井を揺るがし、天井の仮説ライトが鉄材と共にシンジの頭上に降り注ぐ。
「危ないっ!!」
ミサトが叫び、シンジに覆い被さりその身を庇う。
覚悟を決め衝撃と痛みに備えるミサト。
だが突如二人の頭上に出現した紅い光の壁が落下物を弾き飛ばした。
「え……ATフィールド……?」
地面に座り込み揺れに耐えていたリツコは、立ちあがりながら驚愕の表情で声を上げる。
だが続けられた事態は彼女を更に驚愕させる。
エヴァンゲリオンの手がシンジに差し出され、同時に首の後ろ側の部分に突き刺さっている十字型の物体が排除された。
『エヴァが動いたぞ!?……どういう事だ』
『右腕の拘束具を引きちぎっていますっ!!』
『て……停止信号プラグ…排出されました……』
オペレーター達の驚きの声。
「まさか!?あり得ないわ!!エントリープラグも挿入していないのよ!?動くはずないわ!!」
有り得ない、信じ難い光景に叫ぶリツコ。
そんな中、ミサトに庇われたシンジが立ちあがり呟いた。
「…そう…わかったよ……キミに乗れば良いんだね……」
それに答えるかの如く、エヴァの眼に気配が高まる。
「インターフェイスも無しに反応している、というより守ったの?彼を」
シンジに続いて立ちあがったミサトは、シンジとエヴァを見比べ不敵な笑みと共に言った。
「いける」
シンジの視線がエヴァから上のブースに、父親に、碇ゲンドウに移され
「父さん、何の為に呼んだのか……詳しい話は後で良い?」
再びエヴァに戻される。
「今はこのコに呼ばれてるみたいだから」
「構わん」
ニヤリと笑い答えるゲンドウ。
そのまま視線をリツコに向け指示を出す。
「赤木博士。説明を頼む」



エヴァンゲリオン零号機の周囲から赤い液体が排出され全貌が明らかになる。
その姿は地上の使徒に等しく巨大にして強大だ。
『冷却終了』
『右腕の再固定終了』
『ゲージ内全てドッキング位置』
先程までの作戦本部、そこはネルフ本部の発令所。
発令所にミサトとリツコが入ると、着々と発進準備が進められた。
『エントリープラグ挿入』
先程、十字型の物体が排除され露出した穴にエントリープラグと呼ばれる細長い筒が挿入。
『プラグ固定終了』
『第一次接続開始』
首の後ろ側、脊髄部分の装甲が閉じられ準備が進む。



『エントリープラグ、注水』
七色の光が広がるエントリープラグの内部にシンジは居た。
そんな彼の足元から黄色の液体が広がり、周囲を満たしていく。
「わっ、なんですか?これ??」
シンジは口一杯に空気を溜め、息を止めて耐えようとする。
『大丈夫。肺がLCLで満たされれば直接血液に酸素を取り込んでくれます。すぐに慣れるわ』
リツコの説明を聞いたシンジは口を開き液体を飲み込む。
「うぐぅ……ぎもぢわるい……」
肺を満たす液体の感触と、舌を刺激する液体の味に正直な感想を洩らすシンジ。
『我慢なさいっ!!男の子でしょ!!』
「あうぅ〜〜」
返って来た冷たいお言葉に少年は少々凹んだ。



着々と作業の進む発令所。
「主電源接続 」
「全回路動力伝達 」
「第二次コンタクトに入ります。A10神経接続異常なし」
「思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス」
「双方向回線開きます」
「シンクロ率……え!?」
オペレーターの1人が目の前の数値に驚きの声を上げる。
「どうしたの?マヤ」
尋ねるリツコ。マヤと呼ばれたオペレーターはすぐに答えた。
「すいません。シンクロ率99・89%、」
「嘘……」
信じられない数値に言葉を失うリツコ。
「ハーモニクス、全て正常位置。暴走、ありません。」
続けられるマヤの報告。
二、三の瞬きで平静を取り戻し、ミサトの方を振り向き語り掛けるリツコ。
「いけるわ」
ミサトはそれに頷き号令を出す。
「発進準備!」
号令に続き着々と進む発進準備。
「第一ロックボルト外せ」
「解除確認」
「アンビリカルブリッジ移動開始」
「第2ロックボルト外せ」
「第1拘束具を除去」
「同じく第二拘束具を除去」
「1番から15番までの安全装置を解除」
「内部電源充電完了」
「内部用コンセント異常なし」
「了解。エヴァ零号機、射出口へ」
いくつもの拘束を解除され、射出口へ移動していく零号機。
「進路クリア。オールグリーン」
「発進準備完了」
全ての準備が終了し最終報告が出される。
「了解」
ミサトはそれを聞き了解する。
そして作戦部の最高責任者の顔になって、ネルフ総司令であるゲンドウの方を向き
「かまいませんね」
様々な意味での最後の確認を兼ね司令に尋ねた。
「もちろんだ。使徒を倒さぬ限り我々に未来はない」
顔の前で両手を組んだまま答えるゲンドウ。
無言で頷くミサト。
「発進!!」
ミサトの声の下、すさまじいスピードで打ち上げられる零号機。



夕日が沈み、月が夜空に浮かび上がる第3新東京市。
その街を悠然と歩み進行する異形の巨体、使徒。
前方の地面より突如警報音が鳴り響く。
警戒したのか使徒は歩みを止め停止する。
一拍置いた瞬間、地面が開き射出口から巨人が第三新東京市に出現していた。
ソレは武装した紫色の鬼、エヴァンゲリオン零号機
対峙する二つの巨体。
その姿が地下のネルフ発令所モニターに映し出される。
誰かが唾を飲み込む音が聞こえる。
ひょっとしたらソレは自分の物かもしれない
そんな事を思ってから、モニターを見つめるミサトは心の中で呟いた。
(シンジ君。死なないでよ。)




そして……後の世に『使徒戦争第一次直上戦』と呼ばれる戦いの幕は開かれた。



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