「良い名前だよ、これからよろしくネフィリム」







EVANGELION NEPHILIM

EPISODE:6







血の味と臭いのするLCL
それに満たされたエントリープラグの中にシンジは居る。
鼻と口から息を吐き出し、肺の中の空気を空にする。
『おはよう、シンジ君。調子はどう?』
スピーカーからリツコの声が響く。
「問題ないです」
良くは無いけど……と心の中で付け足し答えるシンジ。
『それは結構。エヴァの出現位置、非常用電源、兵装ビルの配置、回収スポット、全部頭に入ってるわね』
「一応感覚では、ですけど」
『では、もう一度おさらいするわよ?通常、エヴァは有線からの電力供給で稼働します』
モニターにエヴァンゲリオンの背中に装着されたコードが映し出される。
『非常時に体内電池に切り替えてると、蓄電容量の関係で、フルで1分、ゲインを利用してもせいぜい5分しか稼働できないの』
リツコの言葉を合図にコードが抜け、プラグのモニタに映る画面が一つ変わった。
電源の表示が変化し、体内電池に切り替わった事を告げ、数字が0に向ってカウントダウンを開始する。
「5分から1分、1R戦えるか否かって所ですね」
『残念だけど、これが私達の科学の限界ってわけ。おわかりね?』
「はい」
ホントに残念だけど……と再び心の中でだけ付け足す。
『では昨日の続き、インダクションモードの練習、始めるわよ』


銃を構えたエヴァンゲリオン零号機、ネフィリムの前に、先日殲滅した使徒『サキエル』が現れる。
「目標をセンターに入れて、スイッチ」
発射された銃弾がサキエルに命中、爆発し跡形も無く消える。
『次』
リツコの指示に続き、ビル群の中から現れるサキエル。
「目標をセンターに入れて、スイッチ」
再び命中。

管制室のガラス越しに実験ホールを見つめるミサトとリツコ。
其処には銃を構え、無数のケーブルが取りつけられたネフィリムの姿が在る。
モニターにはネフィリムの稼動状況が映し出され、オペレーターの伊吹マヤがチェックしている。
モニターに映る仮想世界ではネフィリムの銃撃が使徒を粉砕し続けている。
「しかし、よく乗る気になってくれましたね、彼」
「『このコに…ネフィリムに乗って戦うのが待っていた運命なのかもしれない』だそうよ」
マヤの言葉に答えるリツコ。
「ネフィリムって…零号機の事ですよね?」
起動実験の時に起きたチョットした事件、
通称『起動事件』の際に名前が書き換わったとはいえ………
今まで呼んできた名称を急に呼び変えるのは感覚的にやり難いという人間もチラホラ見かける
「そう零号機の事」
あの事件や先日の戦いを思い出し不敵な微笑みを浮べるリツコ
「本当に運命なのかもしれないわよ……彼とネフィリムが使徒と戦うのは」
軍隊を、否、人知を超えた力を持つ使徒、そしてその力を圧倒した彼等。
これから幾度と無く繰り返されるだろう戦いに様々な意味で震えが来る。
「運命……ね……誰が決めた運命なのやら……」
二人の後ろで訓練の様子を眺めていたミサトはそう呟いた。



朝。
清々しいほどの蒼天に恵まれた爽やかな朝。
そんな爽やかな朝に相応しく、食卓にはトーストにハムエッグ、ポテトサラダにウィンナー、コーンスープにフルーツ盛り合せ、
ヨーグルトにオレンジジュースといった爽やかな洋食な朝食が並んでいる。
流しには既に二人分の食器が洗い終わってあり、食卓に並んでいるのは一人分だけである。
朝食を食べたうちの一人は
「ミサトさん、もう30分立ちましたよ」
隣人にしてこの部屋の家主を起そうとしており、もう一人は
「クワッ〜クワ〜〜〜〜」
否、もう一羽は座布団の上で新聞を読みながら朝のテレビ番組を見ている。
「朝ですよ、起きてください」
部屋の襖を空け布団の傍まで行き、ミサトを揺らして起そうとするシンジ。
ミサトは布団を被ったまま眠そうな声で答える。
「さっきまで当直だったの……今日は夕方までに出頭すればいいのぉ……だから寝させてぇ〜〜」
「仕方ないですね〜、朝ご飯はラップをかけて机の上に置いときますから」
「ついでに燃えるゴミもおねがいね〜〜」
布団の中から手だけ出して振るミサト
「はいはい、行って来ます」
シンジはゴミ袋を持って葛城宅を後にした。



良い感じに二度寝に入ったミサトの耳に電話の音が届く。
ミサトは布団に潜ったまま手を伸ばし
「ふぁ〜い、もしもしぃ?」
眠そうな声で電話を取った。
「なんだ、リツコか……」
『どう?隣の彼氏とは上手くいってる?』
「かれ〜?ああ、シンジ君の事、一応はね〜。でもいまだに電話を持ち歩こうとしてくれないのよ」
『電話?』
「そう持ってないって言ってたし、必須アイテムだからこの前、携帯渡したんだけど
『こういうの持ち歩くのって好きじゃないから』
って部屋に置きっぱなしにしてあるみたいなのよ」
『連絡の為の義務とかそういう事は伝えたの?』
「言ったけどダメ。自分でイヤだと思った事は絶対にしないみたい」
『そう…だったらあの子達に期待しておく事ね』
「あの子達って……山岸さんと戦自に出向してる3人?」
『昨夜、第三に帰って来て、ちょうど今日からまた登校みたい、折角だし4人に説得を頼んでみたら?
 同じクラスなんだし何とかしてくれるかもしれないわよ?』



みんな〜〜おっはよ〜〜〜
少女の元気の良い挨拶が教室に響く。
「おっはよ〜マユミ」
自分の席に鞄を置きながら斜め前の席に座る友人に声をかける。
「おはようございます。マナさん」
マユミと呼ばれた少女は読んでいた文庫本を閉じ挨拶を返す。
続けて少女――マナに、声を細めて話しかける。
「お勤めからは何時頃お帰りに?」
「昨日の夜。結構バタバタしてたけど、ようやく落ち付いたしね〜〜」
マナもまた小さな声で他愛の無い内緒話のような態度で答える。
「そうですか……この間は出撃していなかった様ですが」
「ただ単に出し惜しみしてただけだったんだけど……」
と言って茶色の髪を掻き揚げて溜め息をつくマナ。
「使徒に戦自の攻撃が全然通用しなかったでしょ?
 その御陰で武装だけじゃなくて設計レベルで一度見直しって事になっちゃって……」
「ご苦労様でした」
マユミは苦笑しながら労いの言葉を送る。
「それで、この間の使徒をやったのって誰?」
もしかして……と続けようとするマナに
「私でもレイちゃんでもありませんよ」
否定の言葉を入れて使徒撃退の功労者の方を向くマユミ
「あちらの彼、碇シンジさんがやったんです」
マユミの視線の先を見るマナ。
視線の先には自分の席でヘッドホンで音楽を聞きながら料理雑誌を見るシンジの姿。
「見た目は大人しそうだけど……中身は?」
「まだそんなに経っていないので良くは解りませんが……
 性格は少々天然の入ったマイペース、成績も運動神経も人当たりも良い、優等生タイプと言った所ですね」
面識を持ってから2週間のシンジをそう評するマユミ。
「パイロットとしてはどうなの?」
マナはもう一つの事、気になっている事を尋ねる。
「今までレイちゃん以外に起動できなかった零号機――今はネフィリムというコードで呼ばれてますけど……」
「ふ〜〜ん、名前変わったんだ」
「変わったと言うより変えたと言った方が妥当ですが……その事は置いておいて続けますね
 零号機――ネフィリムを起動させ、初めて乗った機体で99.89%のシンクロ率を出し」
「99.89%!?セカンドやフィフスよりも上じゃない!」
思わず大きな声を挙げるマナ。
マユミは口元に指を当て、しぃ、とそれを抑える。
「ゴメンちょっと驚いちゃって、良いから続けて続けて」
解りましたと頷いてからマユミは言葉を続けた。
「初めてとは思えない見事な操縦でエヴァを操り、そして誰も知らなかった武装を発動させ使徒を殲滅した。
 戦闘の詳細は口で説明するよりも、本部で映像を御覧になれば良く解りますよ」
そこまで言うとマユミは再び文庫本を開く。
「本部に行くまでのお楽しみって事ね」
マナも自分の席に戻り鞄の中身を机の中に移していく。
丁度、チャイムも鳴り始め、他の生徒も自分の席に戻って行った。
時を同じくして教室のドアが開き、担任である初老の教師が入ってきた。

「起立!」
委員長の号令が教室に響く。
「礼」
立ち上がり担任に頭を下げる生徒一同。
続けて着席と言おうとした委員長の言葉は勢い良く廊下を走る足音と、ドアを空ける音に掻き消された。
肩で息を切らせながら、教室に飛び込む二人の少年。
「セーフセーフセーフ!」
浅黒い肌の少年が遅刻じゃ無い事をアピールする、が
「あ〜〜残念ながらアウトですね〜〜ストラバーグ君、浅利君」
担任の無慈悲な一言に25の精神ダメージを受ける。
「だから早く起きなきゃだめだって言ったじゃないか〜〜」
もう一人の、何処か気の弱そうな感じの少年が、浅黒い肌の少年を責める。
「め……目覚ましが3つとも止まってたんだよ」
「ムサシが自分で止めたんじゃないか!それに僕が起しても起しても『後5分』って繰り返すばっかりで!」
「ケイタ、そういう時は叩き起こすのが礼儀だろ!」
「叩いた程度じゃ起きなかったのは何処の誰だよ!」
言い合いを始める二人の少年。
ムサシと呼ばれた浅黒い肌の少年は気弱そうな少年に掴みかからんとし、
ケイタと呼ばれた気弱そうな少年も受けて立とうとしている。が
「二人ともホームルーム中よ!言い合いなら休み時間にしなさい!!」
委員長の少女の一喝を受け、二人は黙って自分の席についた。



「え〜、この様に人類はその最大の試練を迎えたのであります」
初老の担任は、セカンドインパクトを振り返った体験談を語っている。
彼の担当は数学で、この日の4限目のこの時間は社会ではなく数学の授業の筈なのだが……
この老教師には話が脱線して昔話をする事が多々ある、という癖がある。
その為、教室の生徒たちは誰一人として真面目に聞いてはいない。
マユミは文庫本に目を落とし、マナは机の端末でチャットに興じ、ケイタは別の授業の内職に勤め、ムサシは机に突っ伏して昼寝中、
その他の生徒も各々が好き勝手しており、シンジにいたっては弁当に箸を伸ばしている。
「ん?」
梅干を口に運んだシンジの目に浮んだ物が一つ。
自分の端末へのCALLサイン。
ボタンを押してコールに答えると
ねえ、碇君があのロボットのパイロットってホント? Y/N
ロボットと聞いて一瞬悩むが、ああネフィリムの事か、と納得し返答を
返そうとして少々思い留まる。
確か守秘義務があるとか何とか言ってたような???
額に指を当て思い返してみる。
うん確かに言われていた。
ホントなんでしょ? Y/N
再び来る質問の言葉。
それに対して『N』即ち『NO』の返答を返す。
コレで良し、問題無しだね〜〜
と梅干の種を噛み砕いて飲み込み、胡麻のかかったご飯に箸を伸ばそうとしたら
隠したってムダムダ♪みんな知ってるんだから
と言うメッセージが送られてきた。
な〜〜んだ知ってたんだ〜〜だったら隠さなくても良いよね〜〜
と非常に楽観的な思考で今度は
『YES、みんな知ってるなら無理して隠さなくても良いよね〜』
と、脳天気な思考でノーテンキな返答を返す。
その途端、クラスの殆どの面子が驚きの声を上げ席を立ち、シンジの周りに集まって来る。
「ちょっと、みんな!!まだ授業中よ!!」
お下げ髪の委員長が大声をあげて注意する。
「席に着いて下さい!」
委員長としての使命感に燃え、場を鎮めようとする委員長
だが周囲の声に掻き消され、皆の耳にお小言は届かない。
「ねね、どうやって選ばれたの?」
「ねえ、テストとかあったの?」
「怖くなかった?」
「操縦席ってどんなの?」
彼方此方からかけられる質問の声
「あの〜ボクは聖徳太子じゃないんだから一度に質問されても〜〜」
思わず途惑いの声を上げるシンジ。
「ねぇねぇ、あのロボットなんて名前なの?」
前方の少女からかけられる質問の声
「みんなはエヴァ零号機って呼んでるみたいだけど、ボクはネフィリムって呼んでるよ」
「必殺技は!!」
右からの声
「ヴァニシングブレイカーっていって、収束した超光量子が如何とか……」
様々な質問に自分の知りうる範囲で答えて行くシンジ。
その返答の一つ一つに周囲の歓声が沸く。
「天然……」
そんなシンジをマユミは呆れたような目で見つめており。
「ねぇねぇ?何処に住んでるの?」
マナは質問の輪に加わって尋ねている。
その時、キーンコーンカーンコーンとお決まりのメロディが鳴り響く。
「では今日はこれまで」
老教師が授業の終了を告げる。
シンジの周囲にいた面子も席に戻り、委員長の号令と共に授業は終了した。



「碇君、お昼一緒していい?」
シンジに声をかけるマナ。
だがシンジは教室を飛び出し
「ゴメン!カニクリームコロッケサンドがボクを呼んでるから後で!」
と顔も見ずに返し、ダッシュで廊下を駆け抜け消えて行った。
声をかけた姿勢のまま固まるマナ。
「何時もの事です、4限目終了後、購買に走ってパンを買いに行くのは」
弁当箱の入った包みを持ってマナに声をかけるマユミ
「ですから先回りしましょう」
マユミはキラーンと眼鏡を輝かせて悪戯っぽく笑う。
「先回り?」
復活したマナは、何処へ、と尋ねる。
「今日は良く晴れてますから、多分あそこに来ますよ」


屋上入り口からさらに梯子を登った先。
即ち給水塔脇、またの名を屋上の頂上。
「あれ?山岸さんに委員長、それにクラスメートの……」
両手に多種多様なパンを抱えたシンジは、足だけで器用に梯子を上って昼食場所に着き、其処に先客の姿を見付けた。
一人はストレートロングの黒髪に眼鏡の清楚な感じの少女、山岸マユミ。
もう一人はクラスの委員長でお下げ髪にそばかすの少女、洞木ヒカリ。
最後の一人は茶髪にショートカットの元気そうな少女で名前は……
「クラスメートの……誰だったっけ??」
特に記憶が無く、彼女の名前が思い出せない。
「霧島マナ。よろしくね、碇シンジ君」
「此方こそよろしく」
ビニールシートに座り自己紹介を交す。


良く晴れた晴天、程よくそよぐ涼風
そんな平和の中で昼食を楽しんでいる生徒が4人。
食の合間に談笑も弾んでおり、互いの関係をクラスメートから友人にランクアップするくらいに打解けている。
「それにしても碇君が噂のロボットのパイロットだったなんてね〜」
ジュースのパックに生えたストローから唇を離し、言ったのは委員長、洞木ヒカリ。
「意外かな〜〜?」
カニクリームコロッケパンをやっつけ、最後の一つメロンパンに口を着けながら返すシンジ。
「普通は意外、としか言えませんね」
サンドイッチを平らげ弁当箱を包んでいるマユミの言葉。
「まあ、でもアリなんじゃないの?最近シンジ君みたいなタイプのパイロットって流行りみたいだし」
唐揚げを咀嚼してから、一部の業界――主に映像娯楽分野業界の一部――の事を挙げていくマナ。
苦笑しながら流すヒカリとマユミ。
「ふ〜〜ん、色々あるんだね〜〜」
と感心しながら聞き入っているシンジ。
だが突然
「!!!!!!!」
彼の様子が変わる。
目付きは鋭い物に変わり、身に纏う雰囲気がボケボケした感じから研ぎ澄まされた刃の様な鋭い物になる。
「ど…どうしたの?」
急に雰囲気の変わったシンジに途惑いながらも尋ねるマナ。
「使徒が来る」
シンジは一言で答えると給水塔から飛び降りる。
え?と戸惑うヒカリを置いて、マユミとマナもそれに続く。
二人の携帯には非常召集を意味するそれぞれの着信音が鳴っている。
シンジはそのまま屋上の柵を越え、屋上から飛び降りる。
窓の縁に足を引掻け勢いを制御しながら地面に着地し駆けて行く。
同じくして学校に、否、第三新東京市全域にサイレンが鳴り響き、校内放送が生徒達に指示を出す。
『ただいま東海地方を中心とした関東、中部の全域に特別非常事態宣言が発令されました。
速やかに指定のシェルターへ避難して下さい繰り返しお伝えいたします……』



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