『ただいま東海地方を中心とした関東、中部の全域に特別非常事態宣言が発令されました。
速やかに指定のシェルターへ避難して下さい繰り返しお伝えいたします……』







EVANGELION NEPHILIM

EPISODE:7







「目標を光学で補則。領海内に進入しました」
ネルフ本部の発令所にオペレータの報告が響く。
モニターには大二本、小六本、計八本の節足を生やした、イカのような外観の使徒が映し出されている。
「総員、第一種戦闘配置」
副司令の冬月が指令を下す。
司令であるゲンドウが留守の為、現状では彼がこの場の最高責任者だ。
「了解、対空迎撃戦用意」
冬月の司令を受け、ミサトが指示を出す。
「第三新東京市、戦闘形態に移行します」
「中央ブロック収容開始」
第三新東京市中央部にあるビルの大半が地面に沈んで行き、残りのビルを地面から生えてきた防護壁が覆い保護する。
街の姿が次期遷都予定の都市から使徒迎撃要塞都市としての姿に変貌を遂げた。
「政府及び関係各省への通達完了」
「現在対空迎撃システム稼働率48%」
準備が整い敵の到着を待つばかり、だがその前に
「非戦闘員、民間人の避難は?」
ミサトが情報担当オペレーターの青葉に問う。
「既に待避完了との報告が入っています」
振り向きもせずに答える青葉。
モニターに映る使徒は山間部を進行している。
目的地はココ、第三新東京市、その深淵
「司令の居ぬ間に第四の使徒襲来。意外と早かったわね」
モニターの使徒を見ながら呟くミサト。
「前は15年のブランク。今回はたったの三週間ですからね」
その呟きに眼鏡のオペレーターこと、日向マコトが答える。
「こっちの都合はお構いなしか。女性に嫌われるタイプね」
モニターには近代兵器群によって攻撃される使徒の姿が映っている。
戦自の戦車砲が、VTOL機の銃撃が、山中やロープウェイに様々な形で偽装配置された迎撃システムが、
何処からか発射され殺到するミサイルの群が、次々と使徒に命中し爆炎を上げる。
だがイカモドキな使徒は焼きイカになる事は無く、全く効果がありませんぜ旦那ゲッヘッヘッといった様子で悠々と進行を続けている。
「税金の無駄遣いだな」
半ば呆れた表情で皮肉を言う冬月。
確かに技術の急発展によって前世紀より数段安くはなってはいるが、こうもポンポン撃っても良い値段ではない。
これだけ撃てば、少なくとも5家族は仕事もせずに生涯を暮らせる金額は飛んでいったのは間違いない。
「委員会から、エヴァンゲリオンの出動要請が来ています」
青葉からの報告。
ビービーと警告音混じりなのが癪に障る。
「うるさい奴らね。言われなくても出撃させるわよ」
ぼやきながらミサトは昂ぶる気を静める。
さあ、戦いの時間だ。



エントリープラグの中
プラグスーツ姿のシンジが眼を瞑っている。
『エントリースタートしました』
『LCL電化』
『発着ロック解除』
消化完了、栄養変換終了
スピーカーからの声に続けるかのように心の中で呟く。
食べた食事は胃の中から消えた。
体調も良い、栄養も取った、戦うには充分なコンディションだ。
自身の身体状態の確認を終了し出撃の時を待つ。
『シンジ君。出撃、いいわね』
スピーカーからのミサトの声
「はい」
何時でも征ける。
『よくて?敵のATフィールドを中和しつつ、パレットライフルの一斉射。練習通り、大丈夫ね?』
割り込んでくるリツコの作戦説明
「ネフィリムの武器の使用は?」
同時に使えるので同時に使った方が良いのでは?という意思を込め、少々気になり質問する。
『実戦データの収集の為、先ずは手持ちのライフルだけで攻撃を行って頂戴』
「了解」
二人の会話が終了したのを見計らったのか、ミサトの号令がスピーカーに響き渡る。
『エヴァンゲリオン零号機ネフィリム、発進!!』



モニターに映る使徒は山間部を越え街中に入っていた。
どうやら向うも準備したらしい、頭部から下を直立させ形態を変える。
大きい方の二本の節足を開き、先から鞭のような触手のような物が現れる。
その背後、使徒頭部の眼のような器官らしき物では死角になる位置の地面が開く。
開いた地面から姿を現すは紫の巨人、エヴァンゲリオン・ネフィリム
その姿が歪み光の壁が展開される。
「ATフィールド展開」
マヤの報告が届く。
「作戦通り、いいわねシンジ君」
エントリープラグのシンジに話しかけるミサト。
『はい』
シンジは返答すると共に射出口から飛び出しトリガーを引く
×字の火を放ちパレットライフルから発射される銃弾の群が使徒を襲撃する。
爆炎と煙幕に覆われる使徒。
『ちっ!』
訓練時よりも数段多く発生した煙に舌打ちするシンジ。
「バカ!煙で敵が見えない!」
訓練とは発生した煙の量が違うと知ってはいる物の、つい言ってしまうミサト。
煙の中から伸びてくる二本の閃き。
背後にステップしてそれを避わして行くネフィリム。
煙が晴れ使徒の姿が明らかになる。
どうやら先程の閃きは奴の二本の触手のようだ。
光り輝きながら鞭の様に振るわれ、まさに閃光となる二本の触手。
それを間一髪で避けながらライフルから銃弾を放つネフィリム。
『!!!!!』
だが徐々に追い込まれ、腹を打たれると同時にライフルを真っ二つにされる。
「内臓武器での戦闘に切り替えて!」
ミサトは思わず身を乗り出して指示を出す。
ライトニングサンダ―!!
発令所にシンジの声が響くと同時に、ネフィリム頭部の角から電光が照射される!
『な!?』
だが使徒には全く効いてないのか平然とした様子でネフィリムに接近し触手を振るう。
ネフィリムは一つを屈んで避け、もう一つに背を打たれ
「アンビリカルケーブル断線!」
コードを切られた。
「零号機、内部電源に切り替わりました」
「活動限界まで、あと四分五十三秒」
途端に騒がしさを増す発令所
ショルダーニードル!!
バックステップで間合いを空けると同時に円錐の群を放つネフィリム
使徒は触手をプロペラの様に高速回転させ、それらを叩き落す!
だが全てを叩き落す事はできず、幾つかがその異形に突き刺さる!
いける!
そう思った瞬間、ネフィリムの左足に使徒の鞭が絡みつき、そのまま鞭を撓らせネフィリムを投げ飛ばした。



地面に叩きつけられた衝撃がプラグ内部を揺るがす。
シンジは、く、と頭を振り、揺らぐ意識を正常にする。
『シンジ君?大丈夫?シンジ君!?ダメージは?』
『問題なし。行けます』
スピーカーから響く二つの声。
それに加えて先程からヴーヴーと鳴り続ける耳障りな警報が覚醒を助ける。
警報の元を探るシンジ。
モニターに映る警報の元、其処には二人の少女の姿が在った。
ネフィリムの左手の指の隙間に蹲り、涙目で此方を見上げ震えている。
その時、接近してくる使徒の姿がモニターに映る。
振るわれる二つの閃光
「見切った!」
その攻撃を受け止め握り、触手を封じるネフィリム。
だが手の装甲が融け始め、それがシンジの手にも痛みという形でフィードバックされる。



「接触面に融解発生」
「活動限界まであと3分28秒!」
オペレータの声が発令所に響いた。
「シンジ君、そこの二人をエントリープラグへ!」
ある決断をしたミサトはシンジに指示を出す。
「二人を回収した後、一時退却。出直すわよ」
「許可の無い、民間人をエントリープラグに乗せられると思っているの!」
非難めいたリツコの反論。
「私が許可します」
「越権行為よ、葛城一尉!」
ヒートアップしそうになる二人の言い争い。
「初号機、活動限界まであと3分」
だが、オペレーターの報告にそれを遮られる。
「エヴァは現行命令でホールド。その間にエントリープラグ排出。急いで!」
ミサトの命令が発令所に響いた。



エヴァの延髄部分の装甲が開き、エントリープラグが排出される。
『そこの二人乗って!!早く!!』
ミサトの声がスピーカーから流れ、二人の少女は慌ててエントリープラグに乗り込む。
「え!?水!?」
片方の少女の呟きに二人は思わず息を止める。
しかし長くは続かず息を吐き出し、LCLをモロに飲み込む。
「あれ?息できる」
肺を満たしたLCLが直接酸素を送っているのだが、そんな事を露にも知らない少女達は不思議そうに顔を見合わせた。
7色の輝きを放ち光を取り戻すプラグ内部。
二人は其処で苦痛に眉を歪ませているシンジの姿を見付けた。



「神経系統に異常発生!パイロットの神経負荷増大!!」
悲鳴のようなマヤの報告。
「異物を二つもプラグに挿入したからよ。神経パルスにノイズが混ざってるんだわ」
答えるかのように説明をいれるリツコ。
状況は決して好転していない。



「飛べぇぇぇぇ!!!」
シンジの叫びと共に、天高く使徒を投げ飛ばすネフィリム。
飛ばされた使徒は宙を舞いながらも触手を振るって来る!
だが既に軌道を見切り速さに慣れたシンジには通じない。
一撃、二撃、三撃と次々と回避し山の東へ、エヴァの回収ゲートの方へ向おうとする。
其処に迫る4撃目、それを易々と回避……出来なかった。
途中で急激に伸びた触手はネフィリムの首に巻き付き、首を強く締め上げてくる。
「か……ク………!」
絞められる首の感触にシンジは苦痛の声を洩らす。
ますます強くなる触手の閉め付け、追い討ちをかけるかのように振るわれるもう一つの触手。
「ダガー射出!」
両腕装甲部のアタッチメントベイが展開し射出される短剣。
プログレッシブ・ブレイドダガー
ネフィリムに内蔵された近接戦闘用武器
それを両手に逆手で構え、刃を閃かせ首に巻き付いた触手を切り裂き、振るわれてくる触手を叩き落す。
「はぁ………はぁ……はぁ…はぁ…」
締め付けから解放されシンジは荒い息を落ち付かせる。
「あ………あの……私…私……」
傍らから少女の声。
「私……この前のお礼が言いたくて……それでそれで………」
非常に弱弱しく、されど真剣な声で彼女は謝る。
「ノゾミちゃんの所為じゃないんです!私がロックを開けたりしなきゃこんな事に……」
もう一人の少女の言葉。
こんなつもりじゃなかったのだろう、軽い気持ちだったのだろう。
それで彼女達はあんな所にいたのだろう。
だがその結果が………
涙目でシンジに謝り続ける二人。
「大丈夫だから……」
シンジは二人の方を向き、穏かな声色で声をかける。
苦痛で時折歪む物の優しげな笑みを浮かべ、二人の頬を交互に撫でていく。
「必ず勝つから…心配しないで……」
二人は安心したのだろう、黙ってシンジの顔を見たまま頷く。
『零号機活動限界まであと50秒!!』
スピーカーの声と、モニターのカウントダウンが一分を切った残り時間を伝える。
こうなったら!
ネフィリムのブースターを全開にして使徒に突っ込ませる。
『シンジ君!?』
スピーカーから撤退しろだの退却だの命令だの煩い声が聞こえる。
だが気にしない。
今気にすべきは眼前の使徒の動きのみ!
極限まで、世界が色を失うまで意識集中を高め、世界の見切りに入るシンジ。
二筋の閃光となって振るわれ迫り来る触手!

遅い!

だが今のシンジには、視界の風景が色を失うまで意識集中を高めたシンジには
この音速を超え閃光となり必殺の威力を秘めた脅威も、スローモーションの様に遅く素人以下の児戯にしか見えない。
一方は上から袈裟懸けに、もう一方は下から胴を貫かんと直進し、ネフィリムに襲いかかる二本の触手!
シンジはギリギリまでそれを引き付けブースターを切る。
左の踏み込みと共に左の刃を閃かせ迫り来る二本の触手を一気に切り落とす。
そして左足を軸に身体を時計回りに回転させ右の刃を疾らせる!
狙うは頭部下に在る紅い紅球。
大地を揺るがす右の震脚が引きずり上げた反作用力等の大地の力と遠心力、そしてブースターによって得られた突進力
それら全てを余す事無く収束された切っ先が紅球に突き刺さる!
なんの抵抗も無いかの如く刃は紅球に突き刺さる。
おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!
そのまま刃を薙ぎ、紅球を切り裂く!
裂帛の気合を篭めた刃に切り裂かれ、紅球は火花を散らせながら力を失い、使徒の触手は光を失う。



「10,9,8,7,6,5.4」
残り時間のカウントダウンを告げるオペレーターの声
「目標は、完全に沈黙しました」
それに続き使徒の各種反応が停止した事を告げる声が発令所に響く。
「3,2,1、零号機活動を停止」
一瞬の静寂の後に其処ら彼処から安堵の息が零れる。
ミサトも息を一つ吐いてから事後処理の指示を出す。
「機体回収班、回収急いで。それからプラグの二人を着替えさせた後で会議室へ」



エヴァの内蔵電源を使い果たし、搭載された予備電源に代ったエントリープラグ内
シンジは荒い息を落ち付かせ、傍らの二人に声をかける。
「終ったよ……」
微かな灯りに照らされながら笑顔を浮かべるシンジ。
「あ……あの……大丈夫ですか?」
ノゾミと呼ばれた少女が尋ねる。
「大丈夫……ちょっと疲れただけだから……キミ達は?」
「私達は大丈夫です」
もう一人の少女が答える。
「そっか……なら良いや……」
そう言ってシンジは背もたれに体を預ける。
そのまま会話は途切れる。
暫しの後に二人の耳に静かな寝息が聞こえてきた。
おやすみなさい、と呟いた後にその寝顔を見入る二人。


こうして2度目の戦い、第二次直上会戦は終了した。




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